毎年、経営計画書をひとりで作っていませんか?
深夜、パソコンの前に座り、去年の数字を見ながら来期の目標を打ち込む。売上はこれくらい、利益はこれくらい。採用は2名、新商品は1本。できあがった計画書を幹部会議で発表すると、みんなが「いい計画ですね」と言う。そして翌月には、誰もその計画書を開かなくなる。
これは珍しい話ではありません。多くの中小企業の社長が経験していることです。問題は社長の能力でも、社員の怠慢でもありません。経営計画書が「独り言」になってしまう構造が、最初から埋め込まれているのです。
経営計画書が「独り言」になる4つの構造
なぜ経営計画書は機能しなくなるのか。そこには4つの構造的な理由があります。
① 社長の楽観バイアス
計画を作るのは社長本人です。当然、社長の「見たい現実」が反映されます。売上目標は少し強気に、リスクは少し軽めに。これは意図的な粉飾ではなく、誰でも持つ認知の歪みです。しかし計画書を作った本人には、その歪みが見えません。
② 社員の忖度
計画書の発表後、「この目標、無理じゃないですか?」と社長に言える社員がいるでしょうか。ほとんどの職場では、それは難しいことです。社員は社長の顔色を読みます。本音を隠し、「頑張ります」と言う。こうして計画への反論は消え、現実とのズレは修正されないまま放置されます。
ある小売業の社長から聞いた話です。「計画発表の後、営業部長が『社長、少し厳しい数字では』と言いかけた。でも私が『やれる』と言ったら、それ以上は何も言わなかった」。3ヶ月後、その目標は誰も追っていませんでした。
③ 問い直してくれる人がいない
計画書を作る過程で、「その前提は正しいですか?」「なぜその数字なのですか?」と問い返してくれる存在がいますか。ほとんどの社長にとって、答えは「いない」です。計画は一度作られたら、そのまま完成品になります。内側から疑う仕組みがありません。
④ 不得手な領域がないがしろにされる
これが最も見落とされがちな構造です。人は、苦手なことを無意識に避けます。財務が苦手な社長は数字の計画を曖昧に書きます。採用が苦手な社長は「必要になったら考える」で済ませます。営業が苦手な社長は「現場に任せる」と書いて終わりにします。苦手な領域は、計画書の中で静かに死んでいきます。そして本人は気づかない。
製造業・社員22名の社長は、もともと技術者出身で営業が苦手でした。毎年の計画書には製品開発と品質管理の施策が細かく書かれている一方、営業計画の欄には「既存顧客の深耕」の一言だけ。「書き方が分からなかった」と後から話してくれました。その年、既存顧客の一社が取引を縮小し、売上が大幅に落ちました。
不得手領域が抜けると「片手落ち」の計画になる
4つ目の構造が特に深刻なのは、それが計画全体の整合性を崩すからです。
たとえば売上目標を1億円から1.2億円に引き上げた計画書があったとします。しかし採用計画がなければ、誰が売るのでしょうか。商品施策がなければ、何を売るのでしょうか。財務計画がなければ、売上が増えても手元のお金が増えない可能性があります。
| 社長の不得手領域 | 経営計画に起きること |
|---|---|
| 財務・数字 | 売上目標だけが並び、利益構造・資金繰りが抜ける |
| 営業 | 「売上を上げる」とだけ書かれ、どう売るかが書かれない |
| 商品・サービス開発 | 現行商品を磨く施策がなく、現状維持が続く |
| 採用・人材育成 | 「必要になったら採る」という計画不在の状態になる |
一つの領域の欠落が、計画全体を機能不全にします。そしてその欠落は、苦手な社長が気づかない場所に必ず潜んでいます。これが「片手落ち」の計画が生まれる本当の理由です。
卸売業・社員18名の社長は、ある年の計画書に「売上1.5億円達成」と書きました。前年比115%の強気な目標です。しかし計画書を読み返してみると、その売上を誰が・どこに・どうやって売るのかが一切書かれていませんでした。採用計画もなし、新規開拓施策もなし。「どうやって達成するのか」を聞くと、「営業が頑張ればできる」という答えが返ってきました。その年、目標を達成できませんでした。
「もう一人の客観的な自分」を外部に置く
では、どうすればよいか。
人は、自分の考えを声に出して他者に話すだけで、思考が整理されます。さらに「その前提は正しいですか?」と問い返されると、自分だけでは気づけなかった盲点に気づきます。これはコーチングの技術というより、人間の思考の構造です。
この仕組みを計画づくりのプロセスに組み込む発想が、外部に「もう一人の自分」を置くということです。自分の思い込みを指摘してくれる人。苦手な領域を補ってくれる人。「本当にそれでいいですか?」と問い直してくれる人。この存在が計画に加わるだけで、計画の質は根本的に変わります。
特に、組織が20〜30名規模になった局面でこの必要性は高まります。社員数が増えるほど現場の情報は社長に上がりにくくなり、社長が「把握している」と思っている現実と、実際の現場には大きなズレが生まれやすくなります。外部の目がなければ、そのズレに気づくことすら難しくなります。
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社長コーチングの詳細を見る不得手領域をカバーできる「仕組み」を作る
ただし、外部に頼めばいいというわけではありません。その外部が、経営全領域を横断できる人間でなければ意味がないのです。
財務しか分からない人と計画を作れば、財務の計画は精緻になるでしょう。しかし営業・採用・商品・組織の計画は、相変わらず社長の苦手なまま放置されます。特定領域の専門家に頼るほど、その人が得意でない部分は置き去りになります。
必要なのは、戦略・注力ポイント・行動の3点を問い直せる人間です。「来期、何に一番注力しますか?」「その戦略で、現場はどう動きますか?」「その行動計画は、誰が・いつ・何をやるか具体的になっていますか?」こうした問いを、経営の全領域にわたって投げかけられる存在が必要です。
「税理士と作る経営計画」という落とし穴
「外部の力を借りよう」という発想は正しいです。しかし、ここで多くの社長が大きな過ちを犯します。
税理士と一緒に経営計画書を作ることです。
税理士の専門領域は税務と財務です。数字の整合性を取り、申告に必要な書類を作ることが仕事です。その能力には何の問題もありません。
⚠ なぜ税理士との経営計画は機能しないのか
経営計画において、数値は「結果」です。売上・利益・資金繰りの数字は、「何に注力するか」「どういう戦略を取るか」「どう行動するか」が決まって初めて意味を持ちます。税理士はこの「戦略・注力ポイント・行動」の部分が分かりません。得意でないのですから、当然です。結果として出来上がるのは、数字は並んでいるが実行計画のない計画書です。それらしく見えるが、現場は動かない。数値目標の根拠が「頑張ればできる」しかない計画書です。
あるサービス業の社長は、顧問税理士と毎年2月に経営計画書を作っていました。でき上がるのは前年比110%の売上数字と、費用・人件費の見込みが並んだA4数枚の資料。「どうやって売上を増やすか」は一行もありませんでした。社長自身、「毎年作るけど、正直これで何をすればいいか分からなかった」と言っていました。計画書があっても、4月になると結局「去年と同じことをやる」状態に戻っていたのです。
| 税理士と作る計画 | 参謀型コーチングと作る計画 | |
|---|---|---|
| 得意領域 | 数字の整合性・税務 | 戦略・行動・組織・数字の全領域 |
| 計画の軸 | 数値目標(結果) | 戦略・注力ポイント・行動 |
| 不得手カバー | 財務以外は対応不可 | 営業・採用・商品・組織まで横断 |
| 出来上がるもの | 数字が並んだ計画書 | 実行できる経営計画書 |
間違ったコーチを選ぶと、計画の問題は何も解決しません。「外部に頼んだ」という安心感だけが残り、経営は変わらないまま翌年を迎えます。
一人でも、税理士でもなく
経営計画書を「独り言」にしない方法は、ひとつです。
経営全領域を横断できる外部の参謀を、計画プロセスに組み込むことです。
財務だけでなく、営業も、採用も、商品も、組織も。すべての領域で「それで本当にいいですか?」と問い直してくれる存在。社長の苦手な領域を補い、楽観バイアスに気づかせ、社員が言えない本音を代わりに引き出してくれる人間。
これは決して贅沢ではありません。一人で作り続けた計画が機能しなかったコストを考えれば、むしろ最も費用対効果の高い投資です。経営計画書は、社長の「孤独な独り言」であってはなりません。それは毎年繰り返される、静かな機会損失です。
この記事のまとめ
- 経営計画書が「独り言」になる理由は4つ:楽観バイアス・忖度・フィードバックゼロ・不得手領域の放置
- 不得手な領域が抜けた計画は「片手落ち」——財務・営業・採用・商品のどれが欠けても計画は機能しない
- 外部に頼む発想は正しい。しかし税理士は「数値(結果)」しか扱えない。戦略・注力ポイント・行動が抜ける
- 必要なのは経営全領域を横断できる参謀——計画プロセスに組み込むことで計画の精度は根本的に変わる
経営計画を「独り言」で終わらせないために
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